少し懐かしいアニメをレビューするこのシリーズ。あまり知られていない隠れた名作や、最近アニメを見始めた人にもぜひ見てほしいオススメアニメなどを取り上げていく予定です♪
今回レビューするのは2019年に放送されたTVアニメ「ヴィンランド・サガ」です。
「ヴィンランド・サガ」とは?
「ヴィンランド・サガ」は2005年から週刊少年マガジンにて連載が開始され、現在は月刊アフタヌーンにて連載されている漫画。
11世紀初頭の北欧やイギリスなどを舞台に、当時世界を席巻していたヴァイキングたちの生き様を描いた作品です。ヨーロッパ版時代劇のようでもあり、実在の人物をモデルとしたキャラクターも多数登場します。
原作者の幸村誠さんは宇宙ゴミの回収業者の活躍を描いたSF漫画「プラネテス」の作者としても知られており、この作品もTVアニメ化されています。
父を殺された少年の復讐劇
物語の主人公はアイスランドで生まれ育った少年・トルフィン。
村のみんなから頼られる自慢の父・トールズ、病弱だが優しい母・ヘルガ、年の離れた働き者の姉・ユルヴァの4人暮らし。
父の友人で船乗りのレイフから遥かな地「ヴィンランド」への冒険譚を聞き、トルフィンは外の世界や勇敢な海の男たちへの憧れを募らせていました。
そんなある日、北海最強のヴァイキング「ヨーム戦士団」が島に上陸。小隊長のフローキはトールズと旧知の仲で、イングランドとの戦に参加せよという首領の命令を伝えます。
実はかつてヨーム戦士団の大隊長で「戦鬼」と呼ばれ恐れられていたトールズ。とある理由から首領に黙って姿を消し争いから逃げてきたトールズはしかし、家族や村の仲間たちを人質に取られ再び争いに身を投じることになってしまいます。
トールズは村の若者5人とレイフを連れて海へと出ますが、外の世界に憧れるトルフィンはこっそり船に忍び込み生まれて初めて故郷の島を出ることに成功。
ところがフローキとの約束の場所フェロー諸島で待っていたのは、荒くれ者ばかり集まったヴァイキング「アシェラッド兵団」。フローキは密かにトールズを処刑するためアシェラッドを金で雇っていたのでした。
トールズは「本当の戦士」であることを貫き不殺の近いを守り奮戦するもトルフィンを人質に取られ、仲間には手を出さないことをアシェラッドに誓わせ殺害されてしまいます。
卑怯な手を使って父を殺したことに怒るトルフィンはアシェラッドに復讐することを誓い、1人彼らの船に乗り込み……。
トルフィンとアシェラッドの複雑な関係性
前述の通り本作の主人公はあくまでもトルフィンですが、このSEASON1に限ってはトルフィンより主人公をしているのが仇であるアシェラッドというキャラクター。
荒くれ者の集まりであるヴァイキングの首領で、トルフィンにとっては何よりも憎い父の仇。
初登場時は悪役にしか見えない人物なのですが、物語は次第に彼を中心として進み始めます。
父トールズとの決闘に負けたにも関わらず卑怯な手を使って父を殺したアシェラッドに並々ならぬ憎悪を抱くトルフィンは、彼を殺すためにアシェラッド兵団の船に乗り込みます。
決闘で勝って殺すことにこだわるトルフィンを、アシェラッドは決闘してやる代わりに戦果を上げることを要求し、やがて2人は首領とその部下という関係性へと変化していきます。
常に飄々としており冗談を飛ばす一方で、人間の心理を巧みに利用し目的のためならどんな手でも使う冷酷非道なアシェラッド。それでいて依頼されて殺したトールズに敬意を払い彼との誓いを守ったり、トルフィンを利用しながらも一人前の戦士に育て上げたりと非常に多面的で底が見えないのが何とも魅力的。
世界史の勉強にもなる!?
本作の主人公トルフィンはオリジナルのキャラクターではありますが、実は実在した人物がモデルになっています。それが11世紀に実在したとされるアイスランドの商人ソルフィン・ソルザルソン。北アメリカ大陸にあったとされるヴァイキングの入植地「ヴィンランド」へ数十人の移民を連れて渡ったとされる人物です。
またトルフィンの父トールズの友人でヴィンランドへの旅の話を聞かせたレイフも、ヨーロッパ人として初めて北米大陸に渡ったとされるレイフ・エリクソンがモデル。
他にもヨーム戦士団はヨムスヴァイキング、ヨーム戦士団の首領シグヴァルディ、のっぽのトルケル、デーン人の王スヴェン1世、その息子のクヌート1世とハラルド(ハーラル2世)なども登場します。
細かな部分は史実と異なるためあくまでフィクションと理解した上で、1000年前後のデンマークやイングランドがどんな関係だったのか、ヴァイキングとはどんな存在だったのか、人々はどんな生活をしていたのかなど世界史に興味を持つ入口にはぴったりの作品だと思います。
生と死、愛に対する価値観の違い
本作に登場するヴァイキングたちはそのほとんどが荒くれ者で戦って死ぬことを何よりも誉としています。
北欧神話では戦場で死んだ者の魂はワルキューレという女神たちによってヴァルハラへと導かれると考えられており、デーン人(デンマークのヴァイキングたち)たちにはそれがとても重要だったようです。
一方でデンマーク王家の次男クヌートはキリスト教徒。彼らにとって最も大事なことは主である神を信じること。現実がどんなに残酷であろうともいつか神が自分たちを救ってくれる、と信じ救いと許しを求めます。
最も印象的なのはクヌートの教師を務める修道士ヴィリバルド。極度のアルコール依存症でありながら、常に「愛」とは何かを追求しており、ヴァイキングの戦士たちに「愛」とは何かを語る場面も。
ほとんどの戦士たちは彼の話を笑ってバカにしますが、中には「その話もっと聞かせてくれ」と純粋に興味を抱く者がいたのも印象的でした。
そしてクヌートは彼の言葉で、クヌートなりの「愛」の本質に辿り着きます。それはこの世界そのもの。人間が誰かを大切に思ったり愛情を抱くのは「愛」ではなく「差別」なのだとヴィリバルドは言います。
トルフィンの父トールズもまた、生前同じような言葉を息子に託していました。
ヴァイキングとしてかつては力と暴力の世界で生きていたトールズ。しかし妻ヘルガと娘ユルヴァの誕生で戦に嫌気が差しその後は死ぬまで不殺の誓いを貫き通しました。
強い戦士に憧れ剣に魅入られた幼いトルフィンに対し「本当の戦士に剣は必要ない」「誰にも敵などいないんだ」という言葉を遺していました。
ただしこの言葉の本当の意味をトルフィンが理解するのはずっと先。SEASON2に置ける重要なテーマとなっています。
衝撃の結末
SEASON1の最終回はいろんな意味で衝撃的ですがなんと言ってもトルフィン。24話かけてアシェラッドへの復讐だけを目標に生きてきたトルフィンが最終回で迎える結末はあまりにも虚しくやるせない。
物語のラスト、トルフィンの手から抜け落ちた短剣の刃にこれまでの出来事が映し出されていく演出は美しくも残酷です。
復讐は何も生まない、復讐を成し遂げた者もまた悲惨な最期を遂げる、と言った作品は他にもありますがこれまでのトルフィンの人生は何だったんだろうと呆然としてしまう終わり方はかなり意外性がありました。
ただSEASON1最終回のサブタイトル「END OF THE PROLOGUE」からも分かるようにこれは「ヴィンランド・サガ」という物語の序章に過ぎません。
アシェラッド兵団で10数年間を過ごしたトルフィンのその後を描くSEASON2では、これまでほのめかされてきたこの作品の本質がじわじわと見えてきます。
SEASON1を見た後にSEASON2を見ると、これを描くためにトルフィンはあんな過酷な運命を生き抜いてきたのかと衝撃を受けること間違いなし。
魅力的なキャラクターたち
トルフィン
主人公。父を殺したアシェラッドに復讐することだけが人生の全て。二刀流の短剣使いで小柄な体格ながら大の戦士たち相手にも引けを取らない。幼少期は冒険と戦士に憧れる明るい性格だったが、父の死後はアシェラッドへの憎悪と過酷な戦続きですっかり荒んでしまった。
CV.上村祐翔
代表作:「文豪ストレイドッグス」中島敦、「ツルネ」鳴宮湊
これまで演じた中でもダントツで低音。荒々しくぶっきらぼうな口調はかなり珍しい役どころ。セリフの半分以上が怒りと憎しみで、喉を壊すのではと心配になるほどの全力演技。
CV.石上静香(幼少期)
代表作:「食戟のソーマ」水戸郁魅、「鬼滅の刃」まきを、「葬送のフリーレン」ラオフェン
アニメ1話~6話までを演じている。無邪気で好奇心旺盛なトルフィンから、父を殺された後の激情に駆られるトルフィンの変貌が凄まじい。上村さんは1話からアフレコを見学し石上さんの演技を参考にしたそう。
アシェラッド
100人の部下を持つヴァイキングの首領。飄々としているが冷酷で目的のためなら手段はいとわない策士。剣術の腕も一流。相手の顔を見ればどんな人間か分かると言い、人を使う天才。SEASON1においてはほぼ主人公。トルフィンとクヌートに多大な影響を与える。
CV.内田直哉
代表作:「NARUTO‐ナルト‐」うちはマダラ、「機動戦士ガンダム 水星の魔女」デリング・レンブラン
テレビドラマや舞台役者から吹き替えまで幅広く活躍しているベテラン声優。底知れないアシェラッドという人物を時にはひょうきんに、時にはゾッとするほど冷酷に演じている。めちゃくちゃかっこいい。
トールズ
トルフィンの父。昔はヨーム戦士団の大隊長で「戦鬼」と呼ばれ恐れられるほどの戦士だった。長女のユルヴァが生まれて以降は争いに嫌気が差し妻ヘルガと共にアイスランドに隠れ住んでいた。トルフィンが尊敬し慕う自慢の父。「本当の戦士」とは何かその答えに辿り着き、トルフィンのみならずアシェラッドやトルケルなど死後も多くの人物に影響を与えることに。
CV.松田健一郎
代表作:「SPY×FAMILY」ボンド・フォージャー/ナレーション、「攻殻機動隊ARISE‐GHOST IN THE SHELL‐バトー」
太くどっしりとした頼りがいのある声がトールズにぴったり。ナレーションも兼任しており、声自体はトールズのままだがあっさり淡々としていてナレーターとしても素晴らしい。
クヌート
デンマーク王の次男。もう1人の主人公。トルフィンと同い年。非常に臆病な性格で当初はお付きのラグナル以外と一切会話しなかった。敬虔なキリスト教徒であったが、アシェラッドとの出会いで大きく変化していく。
CV.小野賢章
代表作:「黒子のバスケ」黒子テツヤ、「文豪ストレイドッグス」芥川龍之介、「ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風」ジョルノ・ジョバーナ
最初は幼く臆病、しかし終盤にかけてはまるで別人のように勇ましく変化していくのが見どころ。初めてトルフィンと会話するシーンでの、年相応に喚き立てるところが個人的にお気に入り。ちなみに2期はもっとすごい。
ビョルン
アシェラッド兵団の戦士。アシェラッドの右腕的存在でお互いに信頼し合っている。大柄で怪力。普段はわりと冷静だが「狂戦士のキノコ」を食べると理性を失い敵味方関係なく暴れまわる。
CV.安元洋貴
代表作:「鬼灯の冷徹」鬼灯、「BLEACH」茶渡泰虎、「ヘタリア」ドイツ
ハマリ役すぎて安元さんということを忘れてしまうほど。今まで演じた中でも一番好きです。普段はアシェラッドから一歩引いた静かな喋り、「狂戦士のキノコ」を食べた時は獣のように咆哮するギャップが凄まじい。
トルケル
ヨーム戦士団首領の弟で元大隊長。人並み以上の身長と怪力を持つ巨漢。デーン人だが強い相手と戦うためならイングランドにも味方する戦好き。かつての仲間であるトールズを世界で唯一自分より強い男と認めている。
CV.大塚明夫
代表作:「メタルギアソリッド」ソリッド・スネーク、「ONE PIECE」マーシャル・D・ティーチ、「僕のヒーローアカデミア」オール・フォー・ワン、「ルパン三世」次元大介(2代目)
2mはありそうなトルケルの体格にふさわしい太く響く渋い声がこれ以上ないはまり役。純粋に喧嘩(という名の殺し合い)を楽しむ子どもっぽさと、相手を戦意喪失させるほどの狂気と圧がすごい。
ラグナル
クヌートの忠臣で教育係。キリスト教徒でトンガリ頭。病弱なクヌートを守り実の息子に愛して育てた。人前では誰とも話さないクヌートが唯一話す相手。
CV.浦山迅
代表作:「忍たま乱太郎」学園長(2代目)、「サマータイムレンダ」根津銀次郎
声自体は渋いけれど愛情深さを感じるお芝居。吹き替えメインでアニメの出演数はそれほど多くはないものの近年じわじわと存在感が増している。
ヴィリバルド
キリスト教の修道士でクヌートの教師。極度のアルコール依存症で大体酔っ払っている。「愛」とは何かを追求し続け、アシェラッド兵団の戦士から聞いたトールズの「本当の戦士に剣はいらない」という言葉で「愛」の本質にたどり着く。
CV.日野聡
代表作:「鬼滅の刃」煉獄杏寿郎、「ハイキュー!!」澤村大地、「オーバーロード」アインズ・ウール・ゴウン、「呪術廻戦」加茂憲紀
日野さんってこういう役もやるのかと驚かされたキャラクター。役幅が広がり続けている日野さんが演じた中でもかなり異質な部類かも。
レイフ
トールズの友人で大西洋を冒険する陽気なおじさん。幼いトルフィンに海を超えた先の新大陸「ヴィンランド」の話を聞かせた。トールズの死後、行方不明となったトルフィンを探し出すことをヘルガとユルヴァに約束した。
CV.上田燿司
代表作:「葬送のフリーレン」アイゼン、「ジョジョの奇妙な冒険」ロバート・E・O・スピードワゴン
名バイプレイヤー。大体どんな役でも演じられる。本作でもレイフさんの他にモブをいろいろ兼ね役しているので分かるとちょっと面白い。
フローキ
ヨーム戦士団の小隊長。トールズが生きていたことを知ると、独断でアシェラッドに暗殺を依頼した。デンマーク王位継承問題では長兄ハロルド派で、水面下でクヌート派と対立。
CV.斧アツシ
代表作:「機動戦士ガンダム 水星の魔女」サリウス・ゼネリ、「Re:CREATORS」ブリッツ・トーカー
名バイプレイヤー。特徴的な低音なのに大体どんな役にも馴染んでしまう不思議な声の声優さん。
スヴェン
クヌートの父でデンマーク王。イングランドを制圧するためデーン人支配地域(デーンロー)に滞在している。
CV.菅生隆之
代表作:「BLEACH」斬月/ユーハバッハ、「ゴールデンカムイ」永倉新八
激渋ベテラン声優が勢揃いの本作の中でもおそらく一番渋い。セリフひとつひとつの重みや凄みがすごい。SEASON1のラスボスにふさわしいお声。
「ヴィンランド・サガ」はどこで見られる?
「ヴィンランド・サガ」はSEASON1とSEASON2どちらも2024年5月現在Amazon Prime Videoにて配信中!
↓Amazon Prime Video
※本ページの情報は2024年5月時点のものです。
最新の配信状況は各配信サイトにてご確認ください。
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7/26 「ヴィンランド・サガSEASON2」のレビューしました!
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