「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」とは?

「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」(以下ゲ謎)は水木しげる生誕100周年記念として2023年に公開されたアニメ映画。
水木しげるさん原作のアニメ「ゲゲゲの鬼太郎(第6期)」をベースとして作られており、第6期の前日譚となっています。
PG12指定(12歳未満(小学生以下)の鑑賞には保護者の助言や指導が適当とされる区分)の本格ホラー作品で、翌年の2024年にはR15+指定で「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 真生版」(※後述)も公開されました。
あらすじ
鬼太郎について調べる雑誌記者・山田は彼を追って廃村となった哭倉村に足を踏み入れる。引き返すよう鬼太郎たちに警告されるもそれを無視した山田は廃墟の床に空いた穴に落ちてしまう。
時は遡り昭和31年。
日本の財政界を牛耳る龍賀一族の当主・龍賀時貞が死去。時貞の娘婿・龍賀克典が社長の製薬会社「龍賀製薬」の担当であった帝国血液銀行に勤める水木は、懇意にしている克典を次期当主にするため、そして自らの出世のため龍賀一族の暮らす哭倉村へと向かう。
哭倉村で水木は東京に憧れている克典の娘・沙代と彼女のいとこの長田時弥と出会う。
龍賀の邸宅では時貞の遺言を聴くために長女の乙米、次女の丙江、三女の庚子ら一族が集まるが、同席した水木はよそ者として疎まれてしまう。
ところが遺言の内容は水木の期待とは裏腹に、長らく姿を隠していた長男の時麿が当主に指名され克典は酷く落胆する。
さらにその翌朝、新たな当主となった時麿が何者かによって惨殺され――。
大人向けの本格ホラー
PG12指定からも分かるように本作は大人向けの本格的なホラーアニメ。登場人物が惨殺されたり凄惨な最期を遂げる場面もあり、多少のグロ耐性がない方は視聴に注意が必要です。
しかし第47回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞するなどアニメ映画としての評価は高く、ホラーに抵抗がなければ鬼太郎シリーズを知らない方や普段あまりアニメを見ないという方にもオススメの名作。
舞台となる哭倉村は人里離れた山の中に存在する小さな村で、不気味な因習を守り続ける龍賀一族、禁域とされる孤島、よそ者への排他的な言動、金と権力と欲望渦巻く歪んだ一族、不死の妙薬の噂……など、いわゆる“因習村”と呼ばれるタイプのホラー作品。
鬼太郎シリーズなのでもちろん妖怪たちも登場しますが、それ以上に結局一番怖いの人間なヒトコワ系ホラーになっています。
ゲゲ郎と水木のW主人公
最大の魅力は鬼太郎の父(ゲゲ郎)と水木のW主人公コンビ。
谷田部透湖さんが担当したキャラクターデザインはアニメファンの心を掴む洗練されたビジュアルで、鬼太郎と言えばの大きな丸い目が不気味であり可愛くもあるゲゲ郎のデザインは秀逸。
シルエットでも違いが分かるようにデザインされたというビジュアル面と同様に、二人の性格や価値観の対比も印象的です。
帝国血液銀行に務めるサラリーマンの水木は出世のためならゲゲ郎や沙代を利用することもいとわない野心家。
しかしそれは戦争で死にかけたり裏切られた経験からであって、強者に搾取されない強い立場に成り上がりたいという思いがあってのもの。
決して根っからの悪人ではなく非情になりきれない人間臭さが魅力的なキャラクター。
一方のゲゲ郎は愛の人。生き別れた最愛の妻を探して何年も探し回り、平和主義で涙もろい穏やかな人柄。
哭倉村で出会ったまだ幼い時弥を「トキちゃん」と呼び優しく接したり、妻や我が子のために命をかけるなど、人間ではないながらも作中屈指の常識人。
奇妙な縁から哭倉村で出会った二人が最初は互いに良い印象を抱いていなかったところから利害の一致で手を組み、やがては強い絆で結ばれた相棒へと変わっていく。
「愛なんて大げさな」と笑っていた水木が、最後には出世よりもゲゲ郎の大切なものを守ろうとする心境の変化に心打たれました。
醜悪で哀れな龍賀一族
舞台となる哭倉村を牛耳る龍賀一族もまた魅力のひとつ。登場人物が多くその関係性も少々複雑なので初めて見ると混乱しがちですが、公式が公開している相関図が分かりやすいのでオススメ。

物語は当主の時貞が死亡したところから始まり、一族内ではその跡目争いが勃発。取引先の社長である入り婿の克典を次期当主にすべく水木も巻き込まれていきます。
そんな中、一族内で凄惨な連続殺人事件が発生しそれがきっかけで水木は龍賀一族に隠された重大な秘密と忌まわしい風習を知ることに。
金と権力と欲望にまみれた龍賀一族の真実は水木が吐き気を催すほどのものでしたが、真相を知った上で見直すと各登場人物への印象がガラリと変わるのも魅力のひとつ。
特に沙代が東京や水木へ憧れる理由、夫婦なのに作中一度も言葉を交わす場面がない長田と庚子、物語終盤で長田が沙代に放った言葉など意味がわかるとゾッとするものばかり。
初見では良い印象を抱かなかった龍賀の女たちも二度目、三度目と見直すと彼女たちの過ごしてきた地獄のような過去を想像してまたゾッとしてしまいますね……。
昭和30年代の空気感
監督のこだわりを強く感じるのが昭和30年代の空気感。水木しげるさんが鬼太郎シリーズを描き始めたのも同じ頃だそうで、戦後体制から高度経済成長期に移り変わるこの時代を舞台に設定したことにも意味があるようです。
最も特徴的なのはタバコを吸うシーンが非常に多いこと。歩きタバコはもちろんのこと、電車の中で幼い子どもが咳き込んでいてもお構いなしにモックモク。
それは主人公の水木も同じ。初めて沙代と会う場面では声をかける前に火を消しているものの、基本的には目上の相手以外の前ではお構いなしに吸っています。
と言ってもこれはこの時代なら当たり前の光景。昭和どころか平成初期くらいまではみんなどこでも吸いまくっていたので、その当時を知る人から見ると懐かしく感じるかもしれません。

もうひとつこだわったというのが喋り方。水木役の木内秀信さんは古賀豪監督から「昭和の映画風にやりたいから早口を想定している」と言われたそうで、ゲゲ郎役の関俊彦さんともども早口が難しかったと語っています。
特に水木は昭和の無骨な男に描くため、木内さんは監督から事前に「総員玉砕せよ!」(※水木しげるさんの漫画)と「あなた買います」(※1956年公開の佐田啓二主演映画)に目を通してほしいと言われたそう。
ちなみに水木は作中で丙江から「佐田啓二みたい」と評されています。
本気の豪華声優
何気に凄いのが嘘偽りなくガチの豪華声優を起用している点。
昨今のアニメ映画はプロモーションのためか芸能人やタレントを声優に起用することが多い中、本作では大御所から若手まで超実力派の声優をキャスティングしているのが驚き。
これは近年のアニメ映画としてはかなり珍しいことです。
その上主題歌もないので、宣伝や売上よりも作品のクオリティのみで勝負しているところに制作陣の本気を感じます。
実際それで興行収入30億円(真正版含む)を突破しているので、制作陣の本気度と熱量は作品にしっかり現れるのだと分かりますね。
キャラクター | 声優 | 代表作 |
---|---|---|
鬼太郎の父 ゲゲ郎 | 関俊彦 | 「鬼滅の刃」鬼舞辻無惨 「忍たま乱太郎」土井先生 |
血液銀行のサラリーマン 水木 | 木内秀信 | 「MONSTER」テンマ 「テニスの王子様」忍足侑士 |
乙米の娘 龍賀沙代 | 種﨑敦美 | 「葬送のフリーレン」フリーレン 「SPY×FAMILY」アーニャ・フォージャー |
庚子の息子 長田時弥 | 小林由美子 | 「クレヨンしんちゃん」野原しんのすけ(2代目) |
主演の関俊彦さんと木内秀信さんは共にベテラン声優。
本作での演技が評価されて第19回声優アワードにて関さんは主演声優賞を、木内さんは助演声優賞をそれぞれ受賞しています。
アフレコでは早口での演技を求められたそうですが、不思議とゲゲ郎はゆっくりと、水木はより早口に聴こえます。
同じディレクションを受けても演じる役と声優さんによってここまで差が出るのは面白いですね。
本作のヒロイン沙代を演じる種﨑敦美さんの演技もさすが。メインキャストの中では最年少の若手ながら負けず劣らずの存在感を放っています。
龍賀一族の声優陣もさらに豪華。
飛田展男さん、中井和哉さん、沢海陽子さん、皆口裕子さん、釘宮理恵さんが兄弟役というのも驚きですし、彼らの父役が白鳥哲さんなのも意外なキャスティング。
飛田さんや中井さんはセリフ自体は少ないものの、ベテランだからこそ少ない出番でもインパクトがあります。
なお現代パートに登場する鬼太郎、目玉おやじ、ねこ娘はそれぞれ「ゲゲゲの鬼太郎」第6期の声優さんが担当している他、鬼太郎役の沢城みゆきさんは鬼太郎の母役も兼役で担当しています。
キャラクター | 声優 | 代表作 |
---|---|---|
龍賀一族の当主 龍賀時貞 | 白鳥哲 | 「コードギアス 反逆のルルーシュ」ロイド・アスプルンド |
時貞の長男 龍賀時麿 | 飛田展男 | 「機動戦士Zガンダム」カミーユ・ビダン |
時貞の次男 龍賀孝三 | 中井和哉 | 「ONE PIECE」ロロノア・ゾロ |
時貞の長女 龍賀乙米 | 沢海陽子 | 「鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST」オリヴィエ・ミラ・アームストロング |
乙米の夫で龍賀製薬社長 龍賀克典 | 山路和弘 | 「ONE PIECE FILM GOLD」ギルド・テゾーロ |
時貞の次女 龍賀丙江 | 皆口裕子 | 「YAWARA!」猪熊柔 |
時貞の三女 長田庚子 | 釘宮理恵 | 「鋼の錬金術師」アルフォンス・エルリック |
庚子の夫で哭倉村の村長 長田幻治 | 石田彰 | 「新世紀エヴァンゲリオン」渚カヲル |
龍賀家で働く謎の少年 ねずみ | 古川登志夫 | 「ONE PIECE」ポートガス・D・エース |
キャラクター | 声優 | 代表作 |
---|---|---|
幽霊族の生き残り 鬼太郎 | 沢城みゆき | 「ルパン三世」峰不二子(3代目) |
鬼太郎の父 目玉おやじ | 野沢雅子 | 「ドラゴンボール」孫悟空/孫悟飯/孫悟天 |
猫妖怪 ねこ娘 | 庄司宇芽香 | 「デジモンユニバース アプリモンスターズ」花嵐エリ |
廃刊間近の雑誌記者 山田 | 松風雅也 | 「桜蘭高校ホスト部」鳳鏡夜 |
通常版と真生版の違い
ゲ謎には2023年に公開されたPG12の通常版、2024年に公開されたR15+の真生版の二種類があります。
真生版について公式では「327カットのリテイク、合わせて音も再ダビングした」と説明されており、またレーティングがPG12からR15+へと変更。
最大の違いとしては血の色が変わったこと。真生版ではより血の色が強調されており、特に終盤の大量に人が死ぬ場面ではその違いが顕著に現れていました。
とはいえストーリーや残酷描写は特に変わっていないので、特別グロさが増した印象はありません。
その他にも細かなカットで些細な変化があるようなのですが、横並びに同時再生してようやく気づくレベルの違いらしく全てを見つけるのは至難の業。別々に見て違いに気づける方がすごい……!
個人的には終盤の血桜が真生版の方がより鮮やかで美しさが増したように感じました。恐ろしさが増したというよりは色鮮やかで映像美がパワーアップした印象で真生版の方が好みでした。

主な見放題配信
真生版
通常版
※本ページの情報は2025年7月時点のものです。
最新の配信状況は各配信サイトにてご確認ください。
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