少し懐かしいアニメをレビューするこのシリーズ。あまり知られていない隠れた名作や、最近アニメを見始めた人にもぜひ見てほしいオススメアニメなどを取り上げていく予定です♪
ちなみに前回の記事はこちら↓
そして今回レビューするのは2008年に放送されたTVアニメ「魍魎の匣」です。
「魍魎の匣」とは?

「魍魎の匣」は京極夏彦さんによる百鬼夜行シリーズ第2弾の小説が原作のTVアニメで、2008年に全13話でアニメ化されました。原作小説は第49回日本推理作家協会賞を受賞しています。
百鬼夜行シリーズとは
京極夏彦さんによる小説シリーズで、第1弾は1994年に刊行された「姑獲鳥の夏」、第2弾は「魍魎の匣」。2023年までに全10作品発表されている他、多数の番外編シリーズも展開されており、累計発行部数は1000万部を突破。
1950年代の戦後日本を舞台に主人公の「京極堂」こと中禅寺秋彦が「憑き物落とし」として、様々な妖怪に見立てられた奇怪な事件を解決していく様を描く推理モノ。
百鬼夜行シリーズの中でアニメ化されているのはこの魍魎の匣のみですが、漫画家の志水アキ先生によって魍魎の匣含む複数作品がコミカライズされています。
※ちなみに2025年4月からは志水先生オリジナルストーリーのスピンオフ「中禅寺先生物怪講義録 先生が謎を解いてしまうから。」がTVアニメ化される予定ですが、こちらはキャラデザ・スタッフ・キャスト全て本作とは異なっています。
あらすじ
昭和27年。私立の女子校中等部に通う14歳の内気な少女・楠本頼子はふとしたきっかけから同じクラスの聡明な美少女・柚木加菜子と親しくなります。クラス一の秀才で周りから一目置かれる加菜子がなぜ暗い性格で友達もいない自分と仲良くしてくれるのか戸惑うも、大人びた様子で難しい言葉を使う加菜子に頼子は憧れを抱くようになっていきます。
ある時、加菜子は「天人五衰」という言葉を頼子に教えます。それは天界に済む天女が衰えて死んでいく際の5つの兆しを現した言葉。またある時は「私達は互いが互いの生まれ変わりなんだ」と不思議なことを言い、浮世離れした加菜子に頼子はどんどん心酔していきます。
人形の頭を作る職人の母に不信感と苛立ちを抱く頼子と複雑な家庭環境の加菜子は、夏休みに二人だけで旅行に出かけようと約束し、8月15日の夜二人は中央線の武蔵小金井駅で待ち合わせします。
ところが駅のホームで待っていた加菜子は線路に転落してしまい電車にはねられ意識不明の重体に……。
その電車にたまたま乗っていた警視庁の刑事・木場修太郎は泣きじゃくる頼子から話を聞こうとするも彼女は錯乱して支離滅裂な言葉を繰り返すばかり。
加菜子が運び込まれた病院へ向かった木場と頼子はそこで、加菜子の姉だという元女優の柚木陽子や弁護士の増岡、保護者を名乗る雨宮という男と出会います。
一方、小説家の関口巽は雑誌編集者の鳥口と出版社の記者・中善寺敦子と共に、武蔵野周辺で発生したバラバラ死体事件を取材。鳥口はさらに穢れ封じ御筥様という憑き物落としの噂を話して聞かせます。
その帰り、道に迷った三人は鬱蒼とした森の中で「匣」のような形をした奇妙な建物に遭遇してしまい――。
3つの事件
物語は3つの複雑怪奇な謎を中心に進行していきます。
まず最初は加菜子の転落事件。夏休みに頼子と二人きりで湖に行く計画を立てていた加菜子はしかし、駅のホームから転落し瀕死の重傷を負ってしまいます。
目撃者は頼子ただ一人で、事故直後は激しく動揺し泣きじゃくっていたためその場に居合わせた木場や警官らはこれが事故なのか事件なのか、はたまた自殺なのかすら分からず途方に暮れます。
後に姉・陽子の提案で加菜子は謎の研究所へと運び込まれますが、そこで今度は加菜子の誘拐事件へと発展していきます。
2つ目の謎はバラバラ死体事件。これは加菜子の転落事故から半月後に武蔵野周辺で若い女性の手足が鉄製の匣に入れられた状態で発見された凄惨な事件。
さらにその後も別の少女の手足が同じ匣に詰められているのが発見され、武蔵野連続バラバラ事件と呼ばれるようになります。
3つ目の謎は「穢れ封じの御筥様」。これは筥の中に憑き物を封じることで不幸を取り除くという新興宗教で、雑誌編集者の鳥口が調査する他、頼子の母・君枝も信者となり巻き込まれていきます。
教主が信者に喜捨(金品の寄付)を指導することで信者が逆に不幸になっていく、というたちの悪いもの。
加菜子の事件は主に木場刑事、バラバラ事件と御筥様は主に鳥口や関口の視点から描かれ、一見何の関係もなさそうなこの3つの謎が終盤に意外な形で繋がっていく流れは非常に鮮やか。
この他にも関口の小説「目眩」や、同じく小説家の久保竣公の新作「匣の中の娘」も随所で登場し、重要なキーワードとなっています。
無駄な要素が一切ない完成度の高い脚本に心底驚かされました。
伝奇ミステリー
原作小説はいわゆる推理モノに分類されるのですが、事件が起きて刑事や探偵が現場を捜査して容疑者から犯人を当てる――みたいなよくある推理モノとは一線を画します。
まず本作の探偵に当たる人物は主人公の京極堂こと中禅寺秋彦。彼の職業として語られるのは憑き物落としと陰陽師と安倍晴明を祀る神社の宮司。探偵と名乗る場面も呼ばれる場面もありません。
しかし観察眼と推理力はずば抜けており、豊富な知識もあわせて最終的に全ての謎を鮮やかに解いていきます。
他者からの話を聴いただけで推理してしまうところは安楽椅子探偵に近いものも感じられます。
また原作者の京極夏彦さんが妖怪に造詣が深いこともあり、百鬼夜行シリーズのタイトルにはそれぞれ妖怪の名が使われています。
「魍魎の匣」にもタイトルの通り「魍魎」が登場するのですが、妖怪そのものが出てくるわけではありません。あくまでも民俗学などの観点からその妖怪がどのような成り立ちで、どんな妖怪なのかが語られるのみ。
本作では「魍魎」が一体どんな妖怪なのか、魑魅魍魎や鬼と何が違うのか、いつから登場したのか、などを日本や中国の古典を引用しながら京極堂が解説してくれます。聞いたこともないような難しい言葉のオンパレードで、初見ではちんぷんかんぷんですが意味が分かると非常に興味深い。何回か見るとより理解が深まって楽しめます。
映像美
映像面での見どころはなんと言っても美麗な作画。キャラクターデザインの原案を担当したのは「カードキャプターさくら」などで知られるあのCLAMP。同じくCLAMPがキャラデザ原案した「コードギアス」シリーズが好きな人には刺さる絵柄です。
キャラデザは「ラブライブ!」シリーズや「宝石の国」などの西田亜沙子さんが担当しており、CLAMPさんの生み出す美男美女が艶っぽくとても美しく仕上がっています。
アニメーション制作はマッドハウスということもあり作画は安定して美しい。アクションなど動きのあるシーンが少ない分、ちょっとした仕草など動作がとても丁寧で見応えがあります。
会話劇でのみで進行する回では京極堂の難解な解説を視覚的に分かりやすく演出していたり、キャラクターに動きがない代わりに構図にこだわっていたりと、視聴者を飽きさせない工夫も感じられます。
本作の重要なワードである「匣」(もしくは「筥」)の描写も印象的。加菜子が運び込まれた「匣」のような研究所の機械だらけの内部は描き込みが凄まじく、全体的に背景美術が雰囲気たっぷりで世界観にどっぷり浸れるのも魅力。
豪華声優による極上の会話劇
個人的に最大の見どころは出演キャストの豪華さ。メインキャストから端役に至るまで超豪華な声優陣が出演しています。
そしてまた彼らのお芝居が素晴らしい。ベテラン声優が多いこともあって、1話丸々会話のみという動きのない回でも飽きるどころかぐいぐい惹き込まれて聞き入ってしまうほど。
その中でも京極堂を演じる平田広明さんのセリフ量は圧巻です。京極堂が登場する6話以降はほぼ毎回が長台詞。しかも役柄的に小難しい用語も多く、それらを延々5分10分語り続ける。平田さんファンならこれだけで見る価値があります。
もうひとつ本作の特徴的な演出がほぼ全話の冒頭にある朗読。回によって語り手や朗読内容は変わりますが、最も多いのが久保竣公の小説「匣の中の娘」を関口が朗読するというもの。関口はこの朗読以外に本作の語り部も担っており、関口役の木内秀信さんのお芝居も堪能することができます。
特に朗読と語り部を演じる際の木内さんの声は起伏が少ないのもあって淡々としており、余計な情報がない故に耳にすっと入ってくるのでとても心地が良いのでクセになります。木内さんファンにも超オススメ。
重要な役どころである加菜子役の戸松遥さんは当時まだ新人だったにも関わらず、堂々としたお芝居に驚かされました。明るく元気なキャラクターが多い戸松さんの印象とは真逆の落ち着いたちょっとダークな演技力は、ベテラン声優が多い中でも存在感を放っています。
その他の声優さんも超豪華で聴き応えがあるので、主な出演声優とその代表作についてまとめました。
登場人物 | 声優(敬称略) |
---|---|
陰陽師・憑き物落としの京極堂 中禅寺秋彦 | 平田広明 「ONE PIECE」サンジ 「パイレーツ・オブ・カリビアン」ジャック・スパロウ |
鬱病を患っていた小説家 関口巽 | 木内秀信 「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」水木 「MONSTER」テンマ |
「見る」ことができる私立探偵 榎木津礼二郎 | 森川智之 「トップガン」マーヴェリック(トム・クルーズ専属吹替え) 「鬼滅の刃」産屋敷耀哉 |
警視庁捜査一課の刑事 木場修太郎 | 関貴昭 「蒼天航路」張飛 |
カストリ雑誌の編集記者 鳥口守彦 | 浪川大輔 「ハイキュー!!」及川徹 「呪術廻戦」脹相 |
京極堂の妹で出版社の記者 中善寺敦子 | 桑島法子 「犬夜叉」珊瑚 「薄桜鬼」雪村千鶴 |
浮世離れした美少女 柚木加菜子 | 戸松遥 「ソードアート・オンライン」アスナ 「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」あなる |
加菜子に心酔する内気な少女 楠本頼子 | 高橋美佳子 「銀魂」定春 「テニスの王子様」竜崎桜乃 |
元女優の加菜子の姉 柚木陽子 | 久川綾 「美少女戦士セーラームーン」水野亜美 「カードキャプターさくら」ケルベロス |
雛人形の頭師で頼子の母 楠本君枝 | 津田匠子 「鋼の錬金術師」イズミ・カーティス 「千年女優」島尾詠子 |
「匣」のような研究所の所長 美馬坂幸四郎 | 田中正彦 「進撃の巨人」ドット・ピクシス 「シャーマンキング」梅宮竜之介 |
加菜子の保護者を名乗る男 雨宮典匡 | 檜山修之 「幽☆遊☆白書」飛影 「名探偵コナン」京極真 |
柚木家に関わる弁護士 増岡則之 | 三木眞一郎 「ポケットモンスター」コジロウ 「BLEACH」浦原喜助 |
美馬坂の助手 須崎太郎 | 成田剣 「犬夜叉」殺生丸 「忍たま乱太郎」潮江文次郎 |
「穢れ封じ御筥様」教主 寺田兵衛 | チョー 「ONE PIECE」ブルック 「いないいないばあっ!」ワンワン |
警視庁の刑事で木場の部下 青木文蔵 | 諏訪部順一 「テニスの王子様」跡部景吾 「呪術廻戦」両面宿儺 |
武蔵小金井駅前派出所の巡査 福本 | うえだゆうじ 「ポケットモンスター」タケシ 「るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-(1996)相楽左之助 |
黒い外套に白い手袋の男 謎の男 | 古谷徹 「機動戦士ガンダム」アムロ・レイ 「美少女戦士セーラームーン」地場衛/タキシード仮面 |
この他にも小山力也さん、皆口裕子さん、本田貴子さん、青山穣さん、土師孝也さん、坂本千夏さん、三宅健太さんなど声優好きなら知らぬ者はいないほどの豪華声優陣が出演しています。
「魍魎の匣」はどこで見られる?
※本ページの情報は2025年3月時点のものです。
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